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Channel: スポーツナビ+ タグ:サッカー小説
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第41節 不良品①

 進藤から聞かされた話の内容は、透にとって、毎日当たり前のようにサッカーができることがどれほど幸せなことかを胸に突きつけられるようなものだった。 不二崎が以前通っていた緑成高校が経営方針としてサッカーに力を入れ始めたのは5年ほど前のことだった。...

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第41節 不良品②

 以上が、進藤が教頭から聞いた、不二崎が転校してきた理由だった。 不二崎君はサッカーをやめたのではなかった。サッカーをやめざるを得なかったのだ。 透は練習着の上から胸を鷲掴みにした。サッカーができなくなる――。そんなことはいままで考えたことがなかった。胸の奥が息が詰まるほど痛む。 8本目が始まった。 「なんだよ、その顔は。同情してんのかよ」 ボールを間に挟んで併走しながら不二崎が顔を覗き込んできた。...

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第42節 ミス①

 高城との試合から10日が過ぎた。 時間は、グラウンドの向こうに見える川の流れのように日常を刻んでいた。グラウンドに響く声、ボールの放たれる音、スパイクが土をえぐる音も以前と変わらない。...

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第42節 ミス②

※※※読者の皆さまへ諸事情により<●高校サッカー小説「9人サッカー」●第42節 ミス②>は以下のブログにアップしております。五味幹男のアジアときどきフットボール内第43節 責任①へ

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第43節 責任①

 家の前まで来ると嗅ぎ慣れた匂いが鼻をくすぐった。 ドアを開けなくてもわかる。今日の晩御飯はカレーだ。 透は母親のつくってくれるカレー以上においしいカレーはこの世にはないと思っている。大きく切られたじゃがいもや人参、ナスがゴロゴロと転がっているカレーを想像するだけで、沈み込んでいた気持ちがちょっとだけ元気づけられるようだった。 「あら、おかえり。すぐに晩御飯の用意できるから」...

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第43節 責任②

 翌朝、昇降口で靴を履き替えていると後ろから肩を小突かれた。 透が振り返ると、そこにはゆかりが立っていた。 「なによ、その顔は。落ち込んでないの」 「なにが?」 「なにがって高城に負けたんでしょ。てか、むしろ晴れ晴れとして見えるのは私の目がおかしいのか?」 「なんだよ、それ」 透の口元がほころんだ。 「だってこの前負けたときは落ち込んでたじゃない」 「そうだけっか」 「そうだよ」...

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第44節 覚悟①

 玄関を開けると廊下の突き当たりにあるすりガラスの向こう側から賑やかな声が聞こえてきた。 ダイニングには正方形のテーブルに一平と宏が座っていた。 「よう、おかえり」 一平が箸を持ち上げた。右頬が不自然に玉の形に膨らんでいる。 「直人、おまえ毎日こんなにおいしいご飯つくってもらってるのかよ。うらやましすぎるぞ」 「ほんと、おばあちゃん、お料理最高においしいです」...

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第44節 覚悟②

 あれは社会人4年目のことだった。そのとき、新規クライアントの開拓をメインに行う部署にいた進藤は大きな成果を上げた。それまで幾人もの先輩社員が返り討ちにあっていた会社との取引をまとめたのだ。 進藤に特別ななにかをしたという思いはなかった。しかし、その会社の社長に進藤はいたく気に入られた。話はとんとん拍子に進み、年間5億の取引が成立した。進藤はその年の社長賞を最年少記録でもらった。...

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第45節 スタートライン①

 大祐が豪快に右足を振りぬくと、ボールはゴールバーの下っ面に当たった。ポストにはねかえされたボールは、ゴールラインを叩くとゴールネットに刺さった。 「ナイスシュート!」 透は両手を口に当てて叫んだが、大祐は無反応だった。 「よし、じゃあ次のやつ、いこうか」 司が声を張り上げた。 「次のやつ」とは、この前、准と大祐の間でひと悶着あったあの練習だ。 「司」 透は右サイドに向かおうとする司に声をかけた。...

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第45節 スタートライン②

 「なんなんだよ、おまえら。よってたかって准に感化されやがって」 「そんなんじゃないよ」 「そんなことあるんだよ。いまの練習だってどんだけシュートまでいけたよ」 胸が不快に高鳴った。透に限って言えば、8回中2回しかシュートに至らなかった。 「現実を考えろよ。俺たちに与えられるチャンスは少ないんだ。その中でゴールを奪うためには一番確実な方法を続けていくしかないんだ」...

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第46節 賭け①

 進藤は目を細めながら練習を続ける部員たちを見ていた。 2月に入り、学校内は慌しさを増していた。受験真っ只中にある3年生にとってはこれまでの努力が報われるかどうかの瀬戸際であり、その緊張感は来年は我が身の2年生だけでなく、1年生にも伝播していた。 そうした中で、河川敷にあるこのグラウンドだけが、いつもと変わらないままだった。 グラウンドでは部員たちが2人一組で対面パスを続けていた。...

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第46節 賭け②

 腕時計が3分経過を告げる電子音を発した。 「リバース」 進藤は腹の底から声を出した。 5つのボールが一旦止まる。狭まったり広がったりしていた間隔が修正されると、今度はボールが逆方向に回り始めた。...

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第47節 後輩①

 新学年がスタートして3週間が過ぎた。 入学式を待っていたかのように花をつけた桜はすでに散っており、新緑を芽吹かせていた。当初は、緊張した面持ちをしていた新入生も日ごとに新しい生活に慣れてきたようで、いまでは詰襟のホックを一番上まで留めている新入生を探すほうが難しくなっている。...

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第47節 後輩②

 「1年生、結局ひとりもこなかったね」 透は努めて明るい声で、さりげなく言った。 功治と目が合った。 「そうっすね。でも入りたいやつがいないんだから仕方ないですよ。それに俺たちは透さんたちに感謝してるんです。他の部は3年生がどんどん引退していってるのに残ってくれて。な、友則」 友則がうなずいた。...

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第48節 ライバル①

 車を降りた進藤は、薄い灰色の雲に覆われた空を見上げながら、ネックウォーマーを首に通した。 ゴールデンウィークは日ごとに天候を崩していった。前半は見事な五月晴れで、Tシャツ一枚で過ごせるほどの陽気だったが、今にも雨が落ちてきそうな曇り空の下では長袖でも肌寒さを感じた。...

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第48節 ライバル②

 「ミーティングはじめようか」 進藤はベンチから腰を上げて呼びかけた。 「すいません、透がまだトイレから戻ってきていないみたいで。もう少しで帰ってくると思いますけど」 海が手をおでこにかざして、周りを見回した。 「あのー、お忙しいところすいません。少しよろしいでしょうか」...

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●高校サッカー小説「9人サッカー」●第49節 トイレ①

 小走りでベンチ前に戻った透は、チームの雰囲気がトイレに行く前と違っていることに気づいた。 試合にスムースに入っていくための準備のやり方はそれぞれで違う。ボールに触りたい者もいれば、体にスイッチを入れるように筋肉や関節に刺激を与えていく者もいる。あるいは単調な動きを繰り返しながら静かに集中力を高めていく者もいる。 しかし、透がいま目にしているのは、いつもの見慣れた光景ではなかった。...

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●高校サッカー小説「9人サッカー」●第49節 トイレ②

 笛が鳴り、空見のキックオフで試合が始まった。 光が丘は4・4・2のツートップが欠けた布陣だった。オーソドックスと言っていい。 空見は自陣でゆっくりとボールを回した。隆から透、司にボールが渡り、再び透に戻された。透は前にいる功治にパスを出したが、相手が寄せてきたので功治からワンタッチで再びボールが戻ってきた。...

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●高校サッカー小説「9人サッカー」●第50節 被弾①

 前半が終了すると進藤は携帯電話を取り出して操作を始めた。戻ってきた部員は、クーラーボックスから薄めたスポーツドリンクが入ったボトルを取るとめいめいにベンチに腰を下ろした。 「しっかし、あいつら本当にやる気あるのかね」 大祐が両足のストッキングを足首まで下ろしながら言った。 「ほんと、俺なんか暇で暇でどうしようかと思っちゃったよ」 片手を腰にあて、ボトルを高く掲げながら海が言った。...

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●高校サッカー小説「9人サッカー」●第50節 被弾②

 その後、大祐は2度オフサイドにひっかかった。いずれもシュートはゴールネットを揺らしていた。ポストに当たった前半のシュートとひとつでも入れ替わっていればと進藤は歯噛みした。...

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